クラウドサービスなどの進化により「オフィスに出社して働く」という必然性が薄れてきています。とはいえ依然として、事業を行う上では住所、電話番号は個人事業主・法人ともに重要な意味を持っています。起業する際に"とりあえず"事務所を構え、毎月の家賃や光熱費などの固定費が負担になってしまっている方が大勢いるのが現状です。
近年、そのような負担を解消し新規事業の強い味方となっているのが、格安で借りられるバーチャルオフィスです。特に起業する人、独立してフリーランスになる人を中心に人気が出ています。
ただし、起業するすべての方向けのサービスというわけではありません。これから起業をする方には特にオススメのオフィスサービスなのですが、バーチャルオフィスにもメリット、デメリットがあります。
ここではバーチャルオフィスを使った起業のメリットとデメリットを紹介しています。
バーチャルオフィスは貸し事務所やレンタルオフィス、シェアオフィスを借りるのに比べ格安でオフィス機能を持つことができます。
バーチャルオフィスは、オフィスとしての場所や業務スペースを伴わない新しいオフィス形態なので、 毎月の家賃はかかりません。しかもバーチャルオフィスはほとんどの場合、都心一等地に住所を置いています。貸し事務所を借りる場合、敷金礼金、前家賃を含め多額の初期費用がかかりますが、その初期費用を掛けることなく都心一等地の住所を手に入れられるのがバーチャルオフィスのメリットです。
また、通常の事務所などの賃貸契約には、保証金が12ヶ月分ほど必要になるケースがほとんど。その点、バーチャルオフィスは、施設やプランによって多少異なるものの、およそ1ヶ月から3ヶ月程度の保証金で入居できます。
その他、電気代・ガス代などの光熱費、固定電話・FAX・インターネット通信の回線費、消耗品等にかかる雑費、さらには、通常のオフィス開設に必要なデスクなどの家具代や内装など何十万とかかる初期費用がかかりません。
バーチャルオフィスで起業すると自宅で起業するよりは少しコストがかかりますが、それでも、毎月数千円程度から利用することができますので、貸し事務所を借りるより遥かにコストを抑えられます。また、毎月の固定費を抑えるサービスとして知られているレンタルオフィス、シェアオフィスの場合でも賃貸オフィスほどではないにしろ多くのコストが発生します。その分業務スペースを使用できるというメリットはありますが、それが必要ないのであればバーチャルオフィスにすれば大幅なコストダウンが可能です。
税理士さんとの相談も必要ですが、節税につながる可能性もあります。「本店所在地」をバーチャルオフィスの住所で登記し、実際仕事する場所を自宅住所にすることで、自宅の家賃の一部を経費にできるケースがあります。
個別に事務所を借りる時に発生する手続きや作業は一切不要。なぜなら借りるのは住所のみで、会社を運営していくのに必要な設備や環境は自宅に整っているからです。
賃貸契約に伴う雑多な手続きや費用、機材・デスクなどの発注、内装・電話回線・IT環境の整備など、個別で手配しなければならないことは山ほどあります。全部こなすには莫大な時間と労力が必要ですし、費用もかさむもの。肝心の事業にとりかかるのが遅くなったり、作業に集中できなくなったりするかもしれません。
バーチャルオフィスなら拠点を移動せず住所だけを借りることで、面倒な手間を省いてオフィスの成長だけに注力できるのです。
今も昔も、取引先や顧客にとって名刺に記載されている住所、電話番号が相手の会社の信用性を図る大きなファクターとなっています。そして今の時代は、名刺交換をした後、会社に戻ってインターネットで社名等を検索するのはビジネスマンなら基本の作業。
その際、Google ストリートビューを使って建物の外観を確認するのも、当たり前のようにされています。そこで例えば郊外の一軒家の自宅が表示されたりすれば、取引先に与える印象はあまり良くないことでしょう。
その点、バーチャルオフィスの利用は大きいメリットがあります。それはバーチャルオフィスを利用することで、実際に事務所を構えることなく都心一等地の信頼性高い住所を手に入れることができるということです。
もちろん、バーチャルなオフィスなわけですが、名刺に記載した住所へ突然の取引先が訪問してきたとしても「契約した社名」で来客対応を行ってくれるバーチャルオフィスもありますので、信頼性を失う心配もありません。
また起業の際、法人事業の場合は法人登記が必要です。バーチャルオフィスの中には法人登記を行うことができるバーチャルオフィスもあるので安心です。
ケースにもよりますが登記した住所で法人口座開設も実現できます。企業によっては会社の法人口座がないと取引できないところもあるので、是非とも法人口座は開設しておきたいところです。ただし銀行によるところもあり、また、無条件に開設できるわけではなく、あくまでも事業を運営する代表者個人の信用により判断されますので銀行への事前確認は必要です。
そして、法人口座開設をする銀行は会社登記に使用した「本店所在地」の最寄りの銀行の管轄支店です。例えば大阪の都心部の住所のバーチャルオフィスを利用している場合は、大阪の都心部の銀行の支店で口座開設ができるということです。
銀行口座情報は取引先に提出する請求書等に必ず記載するものですので、せっかく大手都市銀行の法人口座であっても、支店名は郊外の支店名というよりは都心一等地の支店名を使えた方がその法人の信用性につながるのではないでしょうか。
社会保険や雇用保険に関してもバーチャルオフィス利用者の加入は可能です。
厚生労働省のホームページにも記載がありますが、個人か法人かに関わらず従業員が1名でもいれば社会保険加入が雇用保険法により義務付けられています。雇用保険の加入も同様に労働者災害補償保険法により義務付けられています。
一昔前までは自治体や日本政策金融公庫の融資制度ではバーチャルオフィスの場合はほぼ利用不可でしたが、今はバーチャルオフィスでも資金調達をすることができると言われています。バーチャルオフィスによっては税理士、行政書士、公認会計士などと提携しており、資金調達をサポートしてくれます。
起業家やフリーランスの方で自宅住所を明かしたくないという場合にもバーチャルオフィスはとても有効です。
むやみに名刺やホームページで自宅を晒して、もしものことがあってからでは遅いですよね。このご時世ですので「Google ストリートビュー」で外観や明確な場所まで確定されて、もしかするとその住所まで訪ねてきてしまうなんてことにもなりかねません。個人情報の観点から言うと、バーチャルオフィスは、賃貸オフィスよりも安全性が高くなるのではないでしょうか。
登記した会社住所を変えずに、会社の成長にあわせてワークスペースを変えられる点もバーチャルオフィスを借りるメリットのひとつです。
レンタルオフィスの施設には、バーチャルオフィスの他に専用ブースのレンタルから豪華な個室レンタルまで揃っており、事業の成長にあわせてバーチャルからブースや個室へと移動も簡単です。
また、バーチャルオフィスでは様々な便利なサービスがあります。基本パックのサービス以外に、自分の事業に必要なものと、それにかかるコストを比べ賢く利用するのが正解のバーチャルオフィス利用方法です。以下、主なサービスです。
これ以外にも、各社特徴を出してきており、例えば、秘書サービスが充実しているバーチャルオフィスがあります。電話対応、来客対応以外に、資料作成、データ集めなどの事務作業から、通販においての発送作業、電話営業などまでやってくれるところがあります。特に秘書の実務レベルの高さは目を見張るものがあります。
このようなサービスを自社の業務に合わせてカスタマイズすることで、作業の効率化が図れ、対外的にも好印象を与えられるでしょう。
バーチャルオフィスは実体がないオフィスのため、法人用銀行口座の作成を断られるケースが多いようです。詐欺で摘発された会社がバーチャルオフィスをメイン拠点として利用していた経緯があることから、審査もより厳しくなっています。企業によっては会社の法人口座がないと取引できない場合もあり、会社の経営に大きなデメリットとなります。
ただし、開業してから半期を過ぎると試算表が出せるため、業務内容が報告しやすくなり口座の開設難易度もグッと低下。必要書類の提出と事業内容の説明がきちんとできれば、問題なく開設できるでしょう。 会社によっては銀行と連携しており、通常と比べると負担なく法人用口座を作れるケースもあります。
銀行口座と同じ理由で、バーチャルオフィスでは社会保険や雇用保険の申請が困難です。加入条件に「会社専用のキャビネットがあり、財務諸表や帳簿類をおいておけるか」という基準があるため、実体がないオフィスでは不可。
ただし、キャビネット付きの個室オフィスやパーティションで仕切られた専用デスクがあれば、加入できる可能性があります。つまり、バーチャルオフィスがダメでも、専用デスク・ブースが一体になったプランなら申請が通ることもあり得るのです。
また、国税庁からは昨今の情勢を鑑みて、記録の作成と保存を行なう電子機器が通信回線などで接続されており、保存用機器のディスプレイへの表示や印刷が速やかに行える場合は、電子機器の設置場所を保存場所として取り扱う、という通達が出されています。
自治体や日本政策金融公庫の融資制度では、バーチャルオフィスの場合はほぼ利用不可となります。支援融資を受けられるところは存在しますが、いろいろな条件を満たさなくてはいけません。
設立直後の会社にとって、創業融資は資金調達に欠かせない方法です。事業としての実態を証明するのが難しい以上、創業時に資金を借りることを考えている方にはおすすめできません。
派遣業や不動産業といった許認可を必要とする会社は、バーチャルオフィスの場合許認可を得にくいようです。例として宅地建物取引業(不動産)では、他の法人と住所が同じ物件を本店にすることはできません。他の業態においても、仮に許認可があっても営業できないケースが懸念されます。
バーチャルオフィスを契約する前に、許認可を取得できる業態かどうかの確認や将来的な業種の検討も視野に入れておくべきでしょう。